「70歳就業法」「年金制度改革」で労働力不足は解消できるか?
70歳就業法や年金制度改革で少子高齢化による労働力不足を解消することが出来るか、高齢者雇用安定法と年金支給年齢の一部改正等について調べてみよう。
目次
- ○ 1.労働力不足はカバーできるか?
- ・① 少子高齢化の拡大
- ・② 高齢者雇用と年金制度改革に着手
- ○ 2.高齢者を守る「年金制度改革」
- ○ 3.受給開始の「繰上げ」「繰下げ」に伴う「メリット」と「デメリット」
- ・① 早く受け取る「繰上げ受給」のメッリトとデメリット
- ・② 遅く受け取る「繰下げ受給」のメッリトとデメリット
- ・③ 年金受け取りの理想的な年齢は?
1.労働力不足はカバーできるか?
① 少子高齢化の拡大
日本は少子高齢化が急速に進み、この先さらに人口も減少していきます。
2008年(1億2808万人)にそれまで増え続けた人口はピークを迎え、その後徐々に減少しています。
2020年(1億2577万人)ではピーク時から497万人減少し、前年比でも39万人減ています。
この先2055年辺りで1億人を割り、1965年に1億人を越えの時点に逆戻りすることで
約1世紀100年近く続いた1億人越えの時代が終わろうとしています。
少子化と高齢化は労働力人口を大きく減少させる要因にもなり、
1960年代から経済成長を支えた労働力でもある生産労働人口は1990年8590万人(69.7%)に達し、
人口比率7割近くまで拡大していました。
その後2000年代も、生産年齢人口(15歳~64歳)は約6割台を維持してきましたが、
少子化により徐々に減少し2018年7545万人(59.7%)に6割を切って、
これからも減少は続き2055年5027万人(51.9%)まで縮小するこ予測されています。
一方で、高齢化を記す老齢人口(65歳以上)が2020年3619万人(人口比28.9%)、
5年後の2025年には3677万人(30.0%)に、
2055年には3700万人(38.0%)に達すると総務省は予測をしています。
日本人口 生産年齢人口(構成比) 老人人口(構成比)
15歳~64歳 65歳以上
1990年 1億2361万人 8590万人(69.7%) 1489万人(12.1%)
2008年 1億2808万人 8230万人(64.5%) 2821万人(22.1%)
2020年 1億2577万人 7405万人(59.1%) 3619万人(28.9%)
2055年 9744万人 5027万人(51.6%) 3704万人(38.0%)
参考資料: 総務省統計局「国勢調査結果」「我が国の推計人口」
② 高齢者雇用と年金制度改革に着手
このように少子高齢化に伴い労働人口が年々減少することから、政府は高齢者に労働力を求めて、
定年延長などの制度推進により雇用の維持を図ることで、経済の維持活性化を目指しています。
生産年齢人口の減少は、社会保障の面でも年金や医療費などの財源確保が従来より減少することになり、
一方で高齢者の増加にともなう社会保障費において年金など増加することで、
財源不足は深刻化を増しています。
政府は「高齢者雇用安定法」など制度を活用して雇用延長など労働機会の拡充と合わせて、
年金制度改革の一環として「在職中の年金受給の在り方の見直し」「年金受給開始時期の選択肢の拡大」など
年金受給関連の見直しも実施することで、課題対策の方向性を示すかたちとなりました。
2.高齢者を守る「年金制度改革」
高齢者の老後を支える柱となっている公的年金を、支給開始は65歳が原則としていますが、
60歳から70歳まで選ぶことが出来ます。
この70歳上限年齢を5年引き上げ75歳までにすることが、今回の年金制度改正法の一部として施行されます。
これは2020年5月の年金法改正によって、
「老齢基礎年金」と「老齢厚生年金」の繰り下げ支給の上限年齢の引き上げが、
2022年4月より開始されることとなりました。
高齢者の就業機会が延びることで、働ける期間がおのずと伸びることも想定し、
60歳から75歳まで選択することが出来るようになります。
3.受給開始の「繰上げ」「繰下げ」に伴う「メリット」と「デメリット」
① 早く受け取る「繰上げ受給」のメッリトとデメリット
年金を早く受け取ることは、年金での生計を立てやすくなることです。
人生の終着はいつおとずれるかわかりません。
また少子高齢化が進む日本で何が起こるかもわからない中で、
年金を受け取らずにこの世を去ることも、可能性としてゼロではないと考えれば、
もらえるものは早くもらっておくことがメリットとなります。
一方で、デメリットは、早くからもらうと月単位で減額されることになります。
減額の幅は、65歳原則から何か月前倒になるかにより、
0.5%から最大30%減額された年金を将来にわたって受け取ることになります。
仮に、60歳から受け取るとすると、30%減額された年金を生涯受給し続けることになります。
減額率は繰り上げ1か月ごと(年金は月単位)に0.5%の減額となります。
65歳-60歳=5年(60か月) 0.5%×60か月=30%減額
また、一度「繰り上げ受給」を選択すると後から受給年齢の変更はできません。
② 遅く受け取る「繰下げ受給」のメッリトとデメリット
逆に年金を遅く受け取ることは、年金の額を増額して受け取ることになります。
65歳0か月原則から受給開始日を1ヶ月繰下げるごとに0.7%増額されます。
仮に、65歳受給年齢を66歳0ヶ月と1年遅くするだけで増額率は8.4%となります。
受給年齢が70歳、75歳とすると、
70歳-65歳=5年(60か月) 0.7%× 60か月=42%増額
75歳-65歳=10年(120か月) 0.7%×120か月=84%増額
受給繰下げも一度選択すると途中では変更することは出来なくなります。
高くなる増額率も一生涯変わることはなく、体力気力に自信があり、
働くことを希望する方、生涯現役を目指したい方などは、支給年齢を遅くし、
年金の額を増額して受け取ることが出来るというメリットがあります。
一方で、受給繰下げにより受け取る年齢が遅くなることで、
自身の思いとは裏腹に人生の終着を早く迎えてしますと、
受給期間が短くなり受給総額が目減りすることになり、
想い通りに年金を受けることが出来ないことがデメリットとなります。
③ 年金受け取りの理想的な年齢は?
それは、「あなたのお考え次第です」
人それぞれに、働いてきた環境により年収も違い、生活や家族の環境も違います。
受け取る年金額も個々様々となります。
一般的な試算では、
男性の場合(※)は70歳前後に繰上げ受給、
女性の場合(※)は75歳繰上げ受給にて、
おおむね日本人の平均寿命(男性81歳、女性87歳)以上に生きることで、
年金の恩恵を受けたことになります。
※この試算は法改正後:2022年4月時点で70歳未満の方を想定
しかし平均寿命まで、またはそれ以上に長生きしても、
健康を害して寝たきりでは年金のありがたさを実感できるでしょうか。
また、年金は生活費のすべてとなる方であれば、
平均寿命以前でも日々の生活費として年金のありがたさを実感できると思います。
このように、個々様々なケースが想定されます。
これまでの人生もこれからの人生プランや生活設計も様々の想いや考えがあることで違います。
また、自分の人生の終着を迎えた時、年金の受取累計総額がはじめて確定しますので、
自分は得したとか損したとかは、その時は損得を思うことなどないと考えられます。
年金制度を理解したうえで、この先の人生や生活設計に活かしていくか、
それを今から準備し対応することで、年金のありがたさを十分実感することが大切だと思います。
では、また。
参考資料 : 厚生労働省 高齢者雇用安定法の改正~70歳までの就業機会確保~
年金・日本年金機構関係 > 年金制度改正法(令和2年法律第40号)
日本経済新聞 高齢者雇用に関する記事
総務省統計局「国勢調査結果」「我が国の推計人口」
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